虫がなぜ光に集まるか。
小説の中で印象に残ったシーンがあったので、書きとどめておこう。
『虫って、いつもああやってライトに頭をぶつけているけど、どうしてだか知ってる?』
『光に向かって飛んでいくからですか?』
『半分正解』
『半分っていうのはね、つまりこういうこと。虫は、たしかに光の位置を頼りに飛んでいるんだ。月とか、星とか、明け方の太陽かね。でも、必ずしも光に向かって飛んでいるわけじゃないんだよ。月や星が、いつも自分から見て同じ方向にあるように飛ぶんだ。そうすればほら、まっすぐに飛べるだろう?』
『あ・・・はい。』
『でも、人間がこういった街灯みたいな小さな光を作るようになったもんだから、虫たちは困ったことになったんだ。何が困ったか、わかるかな?』
首をよこにふる。
『光を自分から見て同じ方向に保とうとするとき、その光が大きなものならいい。まっすぐに飛んでいけるからね。でも光が小さかったら、そうはならない。小さな光をいつも同じ方向に保とうとすると、虫は、その光を中心にぐるぐる回ってしまうことになる。そしてその輪はだんだんと縮まっていく。やがてはこうして、小さな光に頭をぶつけつづけることになるんだ。あたりが明るくなって、この光が消えてくれるまでね。』
『それで、あのカナブンも頭をぶつけてるんですか?』
『そう。だから、夢は大きな方がいいんだ。』
『大きければ大きいほど、まっすぐに飛べる。』
道尾秀介さんの小説のシーンの一部です。